辨 |
ガマ科 Typhaceae(香蒲 xiāngpú 科)には、2属 約35種がある。
ミクリ属 Sparganium(黑三稜 hēisānléng 屬)
ガマ属 Typha(香蒲 xiāngpú 屬)
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ガマ属 Typha(香蒲 xiāngpú 屬)には、世界の熱帯~温帯に約16種がある。
ヒメガマ T. domingensis(T.angustata, T.angustifolia ssp.angustata,
T.gracilis;長苞香蒲・水燭) 『中国雑草原色図鑑』277
T. davidiana(綫葉香蒲・蒙古香蒲・達氏香蒲) 『中国本草図録』Ⅸ/4389
T. elephantina(象蒲)
T. gracilis(短序香蒲)
ガマ T. latifolia (寛葉香蒲)『中国雑草原色図鑑』276
モウコガマ T. laxmannii(無苞香蒲) 広くユーラシア(中国では東北)に分布
T. minima(小香蒲・細葉香蒲) 『中国本草図録』Ⅳ/1905・『中国雑草原色図鑑』276
コガマ T. orientalis(T.latifolia var.orientalis;香蒲 xiāngpú・東方香蒲)
T. pallida(球序香蒲)
T. przewalskii(普香蒲) 『中国本草図録』Ⅴ/2383
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ガマ・コガマ・ヒメガマの見分け方は、
株:ガマは高 1.5-2m、コガマ・ヒメガマは 1.5m以下。
葉:ガマは幅2cm、コガマ・ヒメガマは1cmほど。
雄花穂(上)と雌花穂(下):ガマとコガマは接しているが、ヒメガマは離れている。
雌花穂:ガマは15-20cm、コガマは 7-10cm。 |
訓 |
和名は、古くはカマ。一説に組(くみ)の転訛、菰(こも)と同源、という。 |
漢名の香蒲は、菖蒲に似ていて、かつ異臭がないので。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、蒲黄は「和名加末乃波奈」、香蒲は「和名女加末」、敗蒲席は「和名布留岐加末古毛」と。
源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、蒲は「和名加末」、蒲黄は「和名加末之波奈」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』15(1806)に、「香蒲蒲黄 ミスクサ古歌 ガマ ヒラガマ莞(マルカマ)ニ対シテ云 カバ」と。 |
説 |
広く北半球の温帯に分布、中国・日本の池沼にも広く自生する。
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いわゆる蒲の穂のうち、上部の黄色い部分は雄花・その下に接する 長く太い部分(蒲槌・蒲鉾,かまほこ)は雌花。
ガマの花粉は四個密着していて、他のガマとは異なる。
雌花は、熟すと長い毛のある種子ができ、風に乗って飛散する。 |
誌 |
中国では、古くから利用され、一部で栽培された。
すなわち、根に近い葉の鞘に包まれた淡黄色の部分を蒲菜(ホサイ,pucai)・蒲筍(ホジュン,pusun)と呼んで食用にし、山東省済南ではこれを目的として栽培する。また匍匐する地下茎の先端部分を草芽(ソウガ,caoya)と呼んで食用にし、雲南省昆明ではこれを目的として栽培する。また、葯の花粉を蒲黄(ホコウ,puhuang,ほおう)と呼んで薬用にする(止血剤・利尿剤)が、また砂糖を加えて食う。一部の地方では、茎の芯を剥いて食用にしたり、芽をもやしにして食用にしたりするという。
茎や葉では 敷物・履物・包装材・扇などを作った。
また穂綿は、漢名を蒲絨(ホジョウ,purong)と呼んで詰め物に用い、「蒲団」はこれを寝具に用いたもの。穂を乾燥させ、油を染込ませたものを水蠟燭(スイロウソク,shuilazhu)と呼んで灯火とし、硝石を混ぜて火打石の火口とした。 |
ガマ属の植物の内、T.angustata, T.angustifolia, T.latifolia, T.davidiana, Tminima,
T.orientalis の6種の成熟した花粉を、蒲黄と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅲ』pp.395-401 |
日本でも、古くから中国と同様に利用された。 |
『古事記』に、赤裸にされた因幡の白兎に、大国主命が教えていうには、「今急かに此の水門(みなと)に往き、水を以て汝が身を洗ひて、即ち其の水門の蒲黄(かまのはな)を取りて、敷き散らして、その上に輾転(こいまろ)べば、汝が身 本の膚の如、必ず差(い)えむ」と。 |
かます(蒲簀)・かまぼこ(蒲鉾)・かばやき(蒲焼)など、いずれもガマに由来することばである。
カマボコは、「今多く海鰻(ハモ)の魚肉を刮(こそげ)取りて竹管に煉粘(ねりつ)け、蒲鉾の形に作り炙れば、則ち焦黄色に為り彷彿(さもに)たり。故に亦之を蒲鉾と名づく」と(『和漢三才図会』)。今のチクワ(竹輪)か。
ウナギの蒲焼も、「当初は鰻をチクワ状に巻きつけて焼いた蒲穂焼から発生したもの」という(『四季の花事典』)。 |